第7回今後の国土数値情報の整備のあり方に関する検討会 トークセッション 


    地理空間情報の将来展望について

     

     


    「今後の国土数値情報の整備のあり方に関する検討会」委員一覧

    スーツを着ている男はスマイルしている

自動的に生成された説明

    秋山 祐樹

    東京都市大学 教授

    メガネを掛けた男性

自動的に生成された説明

    桜井 駿

    一般社団法人不動産建設
    データ活用推進協会
    代表理事

    メガネをかけた男性の白黒写真

自動的に生成された説明

    杉本 直也

    静岡県 デジタル戦略局 参事

    メガネをかけたスーツ姿の男性

自動的に生成された説明

    瀬戸 寿一(座長)

    駒澤大学 准教授/東京大学 特任准教授

    スーツを着て座っている男性

自動的に生成された説明

    髙木 和之

    株式会社ゼンリン
    DB戦略本部長

    人, 男, 持つ, スーツ が含まれている画像

自動的に生成された説明

    西澤 明

    地域・交通データ研究所
    代表

    女性の顔

自動的に生成された説明

    溝淵 真弓

    アジア航測株式会社 技術部長/一般社団法人地理情報システム学会 代議員

     

     

     

     

     

    会議室でワインを飲んでいる男性

中程度の精度で自動的に生成された説明

    瀬戸座長 令和510月から令和67月までの間に、「今後の国土数値情報の整備のあり方に関する検討会」を計7回開催して国土数値情報の提供・整備方針を皆さんと検討してきました。おかげさまで、国土数値情報の提供・整備方針をとりまとめられましたので、ここでは委員の皆さんから、国土数値情報を始めとする地理空間情報の活用における課題や期待することについてお話を伺い、将来展望について意見交換をしたいと思います。

     

     


    来るデジタルツイン時代に向けたベースデータの整備

    会議室でパソコンを使っている男性

低い精度で自動的に生成された説明杉本委員 静岡県では平成28年度(2016年度)から点群データの蓄積とオープンデータ化を進めています。レーザ計測技術やAIによるデータ解析の高速化等の先端技術の進展により、近い将来には点群データが「デジタルツイン」時代の新たな社会インフラとして社会全体で活用されることを想定して、令和元年度(2019年度)からバーチャル空間に仮想県土を創る「VIRTUAL SHIZUOKA 構想」を推進しているところです。
    令和373日に発生した熱海市伊豆山地区の土石流災害では、多くの方々の支援を受けて迅速に被害状況を把握し対応できましたが、これは被災前の地域の三次元の点群データを静岡県が取得しオープンデータとして公開していたことが役に立ったと考えています。
    この災害では残念ながら多くの方がお亡くなりになってしまったのですが、一方で点群データの有用性の認知の向上に繋がる契機にもなりました。この後、他の自治体でも点群データを取得するようになった、既に取得していたけど非公開にしていたデータを公開するようになった等の流れが出てきたんですね。これは良い流れで、もっと進んでいくと良いなと思うんですが、自治体単位でデータを取得することは、費用面も含めて色々とハードルが高く、判断が難しい。ですので、国としてデジタルツインのベースのデータを整えていただきたい。そうすれば、各自治体での点群データを取得するかどうか、取得したデータを公開するかどうかといった判断の負荷を減らせるのではないでしょうか。
    これまでに整備されてきた国土数値情報の情報が三次元で可視化されることで、様々な議論が生まれ、より多くの利活用に繋がるような未来を期待したいですね。我々自治体としてもユースケースを示していき、民間企業の方にも協力いただいて、そういった流れを作っていければと思います。

     

     

    AI等の先端技術を活用して作成した地理空間情報の位置付け

    溝淵委員 私からは、私自身も含めて、当社の関係するメンバーの間でちょっと悩んでいて答えを出していきたいテーマとして、AIを活用した地理空間情報の位置付けについてお話したいと思います。
    今回、国土数値情報の提供・整備のあり方を検討していく中でも、AIを活用していく方向性が出てきましたよね。今後はますますAIの活用が進んでいくでしょうし、我々もそういう世界を作っていきたいと思っています。でも、地理空間情報を測量からでなくAIを活用して作成した場合、それは測量成果と言えるのか、どういった位置付けになるのか、ということを考えていかないといけないと思っています。
    今、地理空間情報を作成する際には、測量法第33条の規定に基づく作業規程に準じて測量を行い、基盤地図情報や数値地形図のようなベースデータを作り、それを使って自治体の道路台帳附図や下水道台帳附図のようなデータを作成し、さらに応用データに活用していく、という流れがあります。位置付けという観点からは、道路台帳附図や下水道台帳附図を作成する段階までは測量成果と言えますし、国土数値情報で公開されているデータは測量成果とは呼ばないと思いますが、それでもやはり位置情報の精度が確保されているプロダクトという位置付けになっていると思います。
    このように地理空間情報の作成は測量からスタートしているので、出来上がったデータは測量の成果と言えるのですが、今後様々な入力データに基づいてAIにより作成された場合、それはもはや測量の成果とは言えないのではないか。測量業界にいる者としては、今、大きなゲームチェンジを迎えていると感じています。
    私自身としても、AIを活用した地理空間情報の位置付けはこれから数年をかけてしっかり考えていきたいテーマです。どのように考えていけば良いか、検討の進め方、どこに働きかけをしていけば良いか等、皆さんからもアドバイスをいただきたいです。

     

    髙木委員 私も全く同じことを考えていました。現在の測量の作業規程は工程を担保するもので測量を定めているのですが、今後AIを活用していくとなると作業のプロセスが多様化していく。そうなると、工程担保ではなく成果物担保の考え方に切り替えていくほうが良いんじゃないかなと思っています。今まで成果物担保のやり方ができなかったのは、人間が全部の成果物を検査するには大変な工数がかかってしまうためで、だから工程を縛っておくようにするという考えがあると思うんですよね。しかし、ソフトウェアによる処理で空間情報が生成できることは、ソフトウェアによる処理で成果物の検証もできるとも言えるので、成果物担保の考え方に変えていくことが技術や企業の参入障壁を下げるため業界全体にとって良いのではないかと思います。

     

    瀬戸座長 AIに限らず自動処理の技術で地理空間情報を作ることを想定した場合のお話と理解しました。一方で、AIを含む先端技術の活用によって、成果物の精度自体を向上できる可能性もありますよね。成果物担保という意味では、新しい技術の活用等によって、データの精度を維持しつつ、従来の工程担保の考え方を変える可能性という話も出てくるのではないかと思うのですが。

     

    溝淵委員 今は、最終的な成果物の検査は一般的には抜き取り検査をしていますが、ここで機械処理をしていた場合にエラーが見つかったとしても、じゃあ人間が処理すればエラーが出なかったのに、ということには決してならないでしょう。ただやはり、先ほど髙木委員がおっしゃったとおり、現在の作業規程では、プロセスを担保していることが保証のリミッターになって測量成果として認められるようになっています。ですので、今後は新たな技術を活用して成果物を補強できるような手法を作っていきたいと思っています。

     

    秋山委員 今のお話を聞いて思ったのですが、AIの活用による成果が大量に出てくるということになれば、そのAIによる成果のデータそのものが今度はAIの教師データになり、その成果物自体の検証もまたAIが行うといったことも想定されるのではないかと思います。ただ、検証も人が入らないでAIでやることが本当に大丈夫なのかという議論もちろんあると思うんですよね。そんなところまでAIにさせるなんて怖い、という意識が今はまだ広くあると思うのですが、いざ舵を切ってみればAIでできるようになるのではないかな、という気がなんとなくしています。あとはどのようにAIによる成果の精度を担保するのかという議論になっていくのではないでしょうか。

     

    瀬戸座長 エラー検知も含めた検証ツールの開発は、OpenStreetMapOSM)活動の領域が参考になるかもしれません。OSMはボランタリーで整備されるため、一般的に位置精度の保証はありません。それにも関わらず、今日では民間企業も含めてデータインフラとして世界的に広く活用されてきています。例えば未閉合のポリゴンを検索するツールや、データ編集自体のリアルタイムなモニタリングツールが日々開発され、オープンソースで公開されています。そういったものはユーザーやアカデミックの方々が開発し、精度検証結果などが論文として投稿される側面もありますので、研究開発的な成果も一緒に追っていくと良いかと思います。

     

    秋山委員 そうですね。AIの導入によって生産効率が飛躍的に向上するようになるのであれば、今までより若干精度は劣るけども今までよりも更新頻度が10倍になります、ということでも全然ありだと思いますね。ですので、例えばAI技術を導入して更新頻度を大幅に増やすけど今までより精度がこの程度は落ちます、ということをはっきり書いておくことで、それはそれで使い道があるのではないかと思います。

     

     

    オープンデータと民間データ会社の関係

    机の上のノートパソコンを見ている男性

中程度の精度で自動的に生成された説明髙木委員 当社(株式会社ゼンリン)は各種地図のデータベースやコンテンツを提供する民間のコンテンツプロバイダーであり、その立場からオープンデータと空間情報の市場の関係についてお話したいと思います。オープンデータの広がりは民業圧迫につながるわけではなく、むしろオープンデータは地理空間情報のエントリー層の開拓につながることで、地理空間情報の活性化に非常に貢献していると考えています。
    民間コンテンツプロバイダーは、データの高度化によってオープンデータと差別化することでビジネスを成立させています。国土交通省が国土数値情報のオープンデータを作り、ユーザーが利用し始めると、ユーザーからデータの鮮度や精度を良くしてほしい等の色々な要望が出てきます。こういったユーザーの要望をキャッチして我々のような民間コンテンツプロバイダーがより高度なデータを作る、という流れがあると思います。昨今では特にデータの鮮度、精度への要求が高まってきているので、当社でもデータ更新のあり方を見直し、これまではデータの定期更新としてきたものを、全体的には適時更新としたうえで、優先度を下げてもいいと思えるものは定期更新とするという方針を検討しています。
    オープンデータが拡大していく流れの中で、民間コンテンツはどのように棲み分けていくべきかという観点が必要です。民間コンテンツとオープンデータが重なる部分も出てくるでしょうが、データの鮮度や精度で差別化すれば、民間コンテンツの領域とオープンデータの領域は共存しつつ棲み分けできるのではないでしょうか。このように共存しつつ棲み分けが進んでいけば、例えば国土数値情報では公共部門の情報提供にコストを集中できる、といった効果も期待されます。また、民間企業としても社会への貢献を目的に一部コンテンツをオープンデータ化することも考えられます。この場合、有償コンテンツとオープンデータとの差別化のバランスは、ビジネスとして成り立つかという点について、検討する必要はあります。
    また、民間コンテンツプロバイダーにとっても国土数値情報にとっても、自治体の情報はとても重要です。自治体業務のDX化、データ編集の自動化、形式の統一等を進めて、国・自治体・民間が効果的、効率的に情報を還流できる関係を目指すことで、官民ともに情報源となる自治体の情報を効率的に収集でき編集できるようになります。一方で、個人情報の取扱い、データの目的外利用、データ形式の選択やウェブサイトの安定性等の課題には対応が必要です。
    当社のような民間コンテンツプロバイダーは、国・自治体の情報がどのような市場にどのようなニーズがあるのかというのを定点観測していく必要があると感じています。優先順位はその時々で変わるもので、ずっとニーズがあるコンテンツもあれば、たまたま今年急にニーズが出てくるコンテンツ、などもあり得ます。こうしたコンテンツに対するニーズをきちんと整理していくことが、民間コンテンツプロバイダーの役割だと思っています。

     

    桜井委員 民間企業側から見ても、公的なデータに対して使いやすさに重点を置いている方が非常に多いと感じます。最近ではSaaS形式でのデータ提供もよく使われていますが、公的な機関と民間企業がそれぞれどこまで整備するかという点は、民間企業側としてはあまり気にしていないと思います。そう考えると、公的なデータに関してもやはり提供手法が重要になると思いますね。

     

    髙木委員 そうですね、公的データと民間データのコンテンツの重複についての議論にあまり意味はないと思います。民間企業のビジネスでは、ユーザビリティを向上しようとAPIも含めた提供方法の工夫で競争している面があります。コンテンツがいくつあるかという点が主な問題ではないんです。

     

    瀬戸座長 公的機関と民間企業で提供するコンテンツについて、地理空間情報ならではの役割分担ができる可能性があるとすれば、提供データの空間スケール(空間精度)や属性の充実度といった観点もあるのではと思いました。全て国土数値情報で全国をカバーするべきかという話とは限らず、補完関係にあるのではないでしょうか。

     

     

    不動産建築分野における生成AIの活用の動向

    桜井委員 私からは生成AIをトピックとしてお話したいと思います。この数カ月という短い期間で、海外を中心に不動産建築分野での生成AIの活用が急速に進んでいて、私が重点調査しているものだけでも生成AIを活用したツールが約130もあったんです。そういったツールが何を提供しているのかというと、不動産建築分野に関するあらゆるアウトプットを生成できるようなツールが増えてきているんですね。例えば日本の事例では、重要事項説明書の文章をAIで生成できるツールが出てきています。そこで使われている情報は、国土数値情報はもちろん、民間の事故物件のデータをウェブからクローリングして集めて使用されていることもある。
    これまでに本検討会でも話題に上がったデータコンペの世界でも、例えば先行して取り組んでいる金融業界では生成AIをトピックとしたデータコンペの開催を企画・運営していると聞きます。従来のデータコンペは、オープンデータや民間の非公開データを分析した結果を競うものですが、このコンペはさらにそこから一歩進み、分析したデータをさらに生成AIで加工したアウトプットを作り、その質で競うというものなんですね。もう、ここまで取り組みが進んでいるんです。
    こういったAIのインプットの元になるようなデータの整備を本検討会では議論してきましたが、生成 AIによって具体的なアウトプットに繋がっていくことを考えると、本検討会は意義があったなと実感したところです。

     

     

    選挙事務における地理空間情報の活用事例

    ノートパソコンを使っている男性

中程度の精度で自動的に生成された説明西澤委員 東京都知事選挙が近いこともあり[1]、選挙の掲示板データについてお話をしたいと思います。昨年度の「アーバンデータチャレンジ2023」で、川崎市のグループが「GoVote KAWASAKI ~さそいあって選挙にいこう!~」という作品で入賞していました。これは選挙投票を推進する活動だったのですが、この中で選挙ポスター掲示板の位置のデータを作成していたんですね。市が持っている選挙ポスター掲示板の位置のデータはPDFファイルで住所しか書かれていないものだったため、全て地図に落と込んでデジタル化した、ということですが、それを今回の都知事選で私が個人的に、自分でやってみたんです。
    私が住んでいる自治体の選挙管理委員会の事務局に選挙ポスター掲示板の位置データについて尋ねたところ、選挙ポスター掲示板の住所のリストは無く、逆に管内図に投票区と投票所と選挙ポスター掲示板の位置をプロットした紙の地図があって、一般にも配布できるとのことでした。ですのでこの地図を貰ってきて、手作業でデジタル化してGeoJSONファイルにしてみました。
    デジタル化によってどんないいことがあるかというと、まずは選挙管理委員会の事務の省力化・効率化です。具体的には、選挙ポスター掲示板の管理や掲示板設置工事発注の省力化が見込めます。そして、選挙の立候補予定者には選挙ポスター掲示板マップを渡さないといけないようですが、デジタルデータで渡せるようになれば印刷は不要になる、もしくは少なくできる。都知事選であれば、都内全市区町村分のマップが渡されることになるので、紙の地図ならすごい量になりますからね。また、選挙ポスター掲示板は選挙ごとに大きく変わることはなくて、基本的に同じ所に設置されますので、選挙ごとにデータを修正する手間も小さい。その他には、選挙ポスター掲示板の設置場所の再検討にも活用できると思います。地図で見るとよく分かるのですが、ほとんどの投票所は小中学校に設置され、選挙ポスター掲示板はその周りに13か所設置されています。ある程度の長さの塀が無ければ設置できないので、他には公共施設や公営住宅、大学の周辺が多いです。私の住んでいる自治体には選挙ポスター掲示板が400数十箇所設置されていたのですが、この設置場所が効率的なのかという検証は恐らくされていないと思います。設置しやすい場所に設置されているのでしょう。投票所の周辺に設置されている場合は、選挙当日にポスターを見て考えている人もよくいるので役立っていると思いますが、選挙当日よりもう少し前に見てもらうためには、もっと人通りの多い場所に設置することを検討する必要があるんじゃないかと思います。投票率アップを目指すためには、選挙ポスター掲示板の位置を PR することも有効だと思います。

     

     

    国土数値情報のさらなる利用拡大に向けて

    秋山委員 私は他大学の先生方はもちろん、民間企業とも色々とお話しする機会があり、そういう時に、実は国土数値情報のこんなことをやっているんです、とお話をするとこんなことしてほしい、とか、こんなことやったらいいのでは、といったご意見やご要望を色々いただくんです。ですので、今日はそういったご意見を踏まえて、国土数値情報を今後さらに盛り上げていくために何をすべきかということについてお話ししたいと思います。
    非常に当たり前のことかもしれませんが…まずはやはり社会的な認知のさらなる向上が必要
    部屋に集まっている人々

中程度の精度で自動的に生成された説明と思います。地理空間情報関連の企業にとっても、我々のような地理空間情報分野の研究者は国土数値情報を当たり前に認知しているのですが、例えば金融や物流関係の企業や研究者のような地理空間情報系ではない分野の人達に話をすると、意外と国土数値情報を知らない方が多いんです。「国土数値情報、そんなものがあるんですか?」と言われてしまうこともありましたので、まずは認知度を上げていかないといけないと思っています。
    認知度が向上してきたら、活用シーンのさらなる拡大を目指していくことが必要と思います。これまで国土数値情報を使ったことのないような方々に活用いただいて、国土数値情報が役に立つということをもっと知っていただきたいですね。
    そして実際に活用いただけるようになれば、もっとこういうデータが欲しいとか、あるいは、こちらもこういうデータを持っているんだけど使って下さい、という話も出てきて、利用可能なデータがさらに拡充していくと思います。そういう循環ができれば、自然と国土数値情報も充実していくのではないでしょうか。
    じゃあ今お話しした内容をどのようにして実現していけばよいか、というのを色々な方々からのご意見と私の意見を合わせて整理してみました。まず、社会的な認知をどう向上させるか、これは検討会でも意見に出ていましたが、国土数値情報活用コンペを開催することで認知を向上させてはと思います。そしてコンペの対象を、大学生や研究者、民間企業だけでなく、これから社会に出ていく、大学に進学していく高校生等のより若い人達も含めるようにしてもいいのではないかと思います。さらに、コンペでは賞を設ける、入賞者には賞金を授与する等のインセンティブを付けることも、参加者を増やすには良いのではないかと思います。開催場所も東京だけでなく、全国各地の主要都市を巡る全国キャラバンとすればより面白い意見が集まるんじゃないかな。
    次に活用シーンをさらに拡大していくことについて、これはなかなかハードルが高いと思いますが、国や行政機関が抱えている課題解決に資する国土数値情報の活用事例を募集するといったことを考えました。もちろん、助成金や研究費等を交付して。そうすることでさらに高度な活用に繋がっていくと思います。
    最後に、利用可能なデータのさらなる拡充に向けた取組案としては、もちろん国や自治体が情報収集してデータを作っていくこともあると思います。それとは別に、大学や企業で作ってはみたけど結局使わずに眠っているデータや、地理空間情報ではない目的で作り続けているが地理空間情報と言えるデータがある、といった話を実は結構聞きます。ですので、そういったデータをうまく再利用できるようなスキームを国土数値情報の中に作れれば、今までよりも加速度的にデータが増えていくことを期待できるんじゃないかな。全く我々が考えもしなかったアイディアがポロッと出てきて、実はこれがすごく使える、ってなっていくと期待をしているところです。もちろんこれを実現するには様々な課題があり交通整理が必ず必要ですが、利用可能なデータのさらなる拡充という観点では検討してみてもいいんじゃないかなと思っています。

     

     

    教育現場で国土数値情報をより活用するには

    瀬戸座長 皆さん、色々な視点から興味深いお話をありがとうございます。それでは私からも、教育・研究に携わる者の立場からお話をしたいと思います。私が担当しているGISによる地図作成・空間分析を行う実習では、現在、1年間の実習のおよそ3分の1で国土数値情報を活用しており、政府統計の総合窓口(e-Stat)等のオープンデータも活用しています。GIS学術士の資格認定にも関わり、課題の多い実習のため、教育利用であってもオープンデータ(商用利用可)が利用されやすい傾向にあります。学生がデータを組み合わせて空間分析を行う課題のレポートの中には、国土数値情報を活用したものも多くありました。
    昨今では、高等学校の教育現場でも、必修となった「地理総合」においてGISが単元となり、活用機会の向上も期待されますが、先生方が自らGISソフトウェアを使って国土数値情報のデータを加工し、教材準備をすることは容易ではない点、本検討会の話題提供でもご指摘いただきました。例えば、地理総合の教科書でも紹介されている、地理院地図や地域経済分析システム(REASAS)、地図で見る統計(jSTAT MAP)のように、操作しやすいデータビューワーがあると教育現場における利便性がさらに向上するかもしれません。公的データのビューワーをすでに公開している府省庁と連携することも一案でしょう

     

     

    今後の国土数値情報の整備と活用に向けて

    瀬戸座長 年度を跨いで開催した「今後の国土数値情報の整備のあり方に関する検討会」を終えるにあたって、検討会で国土数値情報の整備の課題として意見が挙げられてきたものの、具体的な解決策の議論までできなかったことについて、私なりの所感も交えてお話ししたいと思います。
    まずは1点目として、国土数値情報のニーズの把握について。直近では今年10月にGIS学会がありますので、そこで国土数値情報について議論するセッションを本検討会の複数の委員の皆さんのご協力のもとで企画いただいています。他にも、GISに関するコミュニティに対しても、国土交通省からもお声掛けいただきたいとお願いしています。また、ニーズ把握に向けた利用者のインセンティブについては、一例として、現在国土数値情報のダウンロードサイトにある「活用事例」のページやSNSなどで、情報提供のあったユーザーによる活用事例を一定の基準をもとに掲載することが考えられます。
    2
    点目として、国土数値情報のユーザーをどのように拡大していくかという課題があります。データ活用に貢献いただいた方々へのエンゲージメントやさらなる動機になるよう、例えばAPI提供の際には優先的に使用いただくなども一案だと思います。学会やコミュニティでの表彰等もあると良いと思います。さらに、データチャレンジなどに参加し賞金も出るようにすれば理想的ですが…さすがに難しいでしょうか。まずは、既存の取組に相乗りする形でもいいかと思いますが、従来の地図・測量に限らず、データサイエンスなどの分野に対しても露出度を増やすとよいのではないかと考えています。
    最後に3点目として、効率的な整備手法・提供手法をどうしていけばよいかという課題への一案として、データの「空白地域」に対する制度面の工夫も重要ですが、自治体からデータ収集をする際に、共通のデータエディタやコンテンツマネジメントサービス(CMS)を導入するなどシステム面の効率化も考えられるかもしれません。
    今回、国土数値情報の提供・整備方針を定めたわけですが、その先の観点として国土数値情報の整備における基本原則を作るとしたら、という観点で最後にお話ししたいと思います。国土交通省都市局が主催した「まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション実現会議」 に委員として関わりましたが、その際に『実現ビジョン〔ver1.0〕』を策定し、まちづくりのDXにおける取組の全体像を表現するために「まちづくりDX原則の考え方」を提示しました。国土数値情報の整備における基本原則も、このように整備に先立って取組の全体像を示していくことを検討しても良いのではないかと考えています。
    1
    点目は“サービスアプローチ”。FAIR原則に則ってあらゆる利用者にとって活用しやすいデータ提供形式と検索性の向上等を目指すことです。2点目は“標準化”。データ標準の策定や、メタデータの整備・機械可読性の担保が必要です。データごとで精度や情報量が統一的になるよう、例えば地方公共団体等の情報提供者への働きかけをしていくことです。3点目は“官民連携”。データの活用方策や新たな整備ニーズの掘り起こしに、産・官・学・民それぞれのステークホルダーがそれぞれの立場から貢献・連携していくことが必要です。最後に4点目、“Open by Default”。国土数値情報は地理空間分野のデータコモンズとして、「オープンデータ化原則」(①営利、非営利目的を問わず二次利用可能、②機械判読に適応、③無償で利用可能、であること)に基づいて整備していくこと。

    ※第7回 今後の国土数値情報の整備のあり方に関する検討会資料より抜粋

    1 瀬戸座長資料①

    ※第7回 今後の国土数値情報の整備のあり方に関する検討会資料より抜粋

    2 瀬戸座長資料②

    ただ、今お話しした内容は検討会で議論したものでなく、あくまで先述の『実現ビジョン〔ver1.0〕』を援用した個人的な私案であることは断っておきます。
    最後になりますが、本検討会ではもちろん、それ以外の場面でも地理空間情報分野に携わる者として委員皆様とは日頃から意見交換をさせていただく機会は多かったのですが、今日は皆様から話題提供いただき、新鮮な視点のお話を聞くことができて大変刺激を受けました。引き続き、皆様と共に国土数値情報も含む地理空間情報の進展に貢献できればと思います。本日はありがとうございました。

    屋内, 天井, テーブル, 人 が含まれている画像

自動的に生成された説明

     



    [1] 2024年(令和6年)東京都知事選挙は令和677日に行われた。

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