国土数値情報とQGISを活用した立地適正化計画における居住誘導区域の人口推移分析

    2025年11月 国土交通省 政策統括官付 地理空間情報課




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    はじめに

    この記事では、主に自治体の都市計画・まちづくりに関わる方々を対象に、立地適正化計画における居住誘導区域の2015年から2030年までの人口推移を分析する手法として、以下の解析方法を紹介します。

    1.         立地適正化計画データの前処理と整備

    (1)     立地適正化計画データを追加して、居住誘導区域を抽出します。

    2.         将来推計人口データの処理と結合

    (1)     基準となる500mメッシュを作成し、R6国政局推計とH30国政局推計のデータをもとに、2015年から2030年までの人口推移データを作成します。

    3.         居住誘導区域内の人口推移分析

    (1)     居住誘導区域と交差する人口推計メッシュを抽出し、人口増減を可視化します。

    (2)     鉄道データやバスルートデータを追加して、人口増減が公開資料と同様の結果となっているか確認します。

    これらの分析により、立地適正化計画の効果検証や今後の施策立案に活用できる基礎資料を作成することができます。


    ・この記事は、QGIS3.40で執筆しています。
    ・QGISの基本操作(レイヤの追加やスタイルの設定など)ができることを前提としています。

    立地適正化計画とは

    立地適正化計画とは、人口の急激な減少と高齢化の進行を背景に、安心できる健康で快適な生活環境の実現と、財政面・経済面において持続可能な都市経営を可能とするために、居住機能や医療・福祉・商業、公共交通等のさまざまな都市機能を誘導したコンパクトなまちづくりを目指す包括的なマスタープランです。2014年(平成26年)の都市再生特別措置法の改正により制度が創設されました。

    また、立地適正化計画においては、人口減少の中にあっても一定エリアにおいて人口密度を維持することにより、生活サービスやコミュニティが持続的に確保されるよう、居住を誘導すべき区域として、「居住誘導区域」が定められます。


    公共交通を軸とした居住・都市機能の誘導の一体的な推進事例:富山県富山市

    国土交通省の「立地適正化計画の手引き【資料編】」(令和64月改訂)に事例が掲載されている富山県富山市では、立地適正化計画とあわせて公共交通を軸とした計画的なまちづくりを推進しています。特に、公共交通沿線への居住の推進や公共交通軸の活性化等の取組みを通じて、持続可能な都市構造の形成を目指し、さまざまな取り組みを実施しています。これらの取り組みの結果、居住誘導区域では、平成24年度以降、転入者が転出者を上回る傾向が続くなど、具体的な成果が表れています。

    なお、この記事では、富山市を対象エリアとして、立地適正化計画における居住誘導区域の人口推移を分析する手法を解説します。

    データのダウンロードと追加

    国土数値情報では、立地適正化計画のデータは単体で提供されておらず、「都市計画決定情報」に内包されて配布がされています。

    国土数値情報の「都市計画決定情報」のページにアクセスして、対象の市区町村のデータをダウンロードします。年度やデータ形式、市区町村を選択することで、下部にダウンロードボタンが表示されます。ここでは、2024年度の富山県富山市、シェープファイル形式のデータをダウンロードしました。

    データのダウンロード時にアンケートが表示されたら、回答もしくは[スキップする]をクリックするとデータのダウンロードが開始されます。

    ダウンロードしたデータを解凍すると、都市計画決定情報に関するデータが複数格納されています。立地適正化計画のデータは、「<市区町村コード>_ritteki.shp」となっているデータです。QGISにドラッグして追加しましょう。

    追加したデータの属性テーブルのAreaType(区域区分)を確認してみると、立地適正化計画区域、都市機能誘導区域、居住誘導区域にデータが分類されていることがわかります。

    居住誘導区域の抽出

    今回分析の対象としたいのは、立地適正化計画のうち「居住誘導区域」です。プロセシングツールボックスより、「属性による抽出」を使用して、データを抽出します。

    まずは、メニューバーから[プロセシング][ツールボックス]を選択します。


    プロセシングツールボックスが開いたら、検索欄に「属性による」と入力して、検索結果から「属性による抽出」をダブルクリックします。

    以下のように設定します。

    1.         入力レイヤ:[16201_ritteki

    2.         選択基準になる属性:[AreaType ]

    3.         演算子:[=

    4.         値:「居住誘導区域」と入力

    5.         [実行]ボタンをクリック

    居住誘導区域のみのデータが作成されました。レイヤ名を「居住誘導区域」のように変更しておきましょう。

    データのダウンロードと追加

    次に、R6国政局推計とH30国政局推計の将来推計人口データをダウンロードし、QGISに追加します。人口推計メッシュデータは都道府県単位で配布されているため、富山県のデータをダウンロードします。

    ·            500mメッシュ別将来推計人口データ(R6国政局推計)
    ·            500mメッシュ別将来推計人口データ(H30国政局推計)

    将来推計人口データは、国勢調査を基に各メッシュの将来人口を推計し、500mメッシュごとに集計したデータです。属性「PTN_20xx」は20XX年の男女総人口を示しています。

    今回の分析では、「500m_mesh_2018_16H30国政局推計 将来推計人口データ)」から「PTN_2015」を、「500m_mesh_2024_16R6国政局推計 将来推計人口データ)」から「PTN_2020PTN_2025PTN_2030」のデータを使用して、2015年から2030年までの人口推計を確認します。

    また、この二つのデータについては、人口が存在しないメッシュについてはデータが作成されていません。そのため、まずは、富山市における「居住誘導区域」レイヤの範囲を基準として、500mメッシュを作成し、そのメッシュに対して二つの人口推計メッシュの属性データを結合し、一つの統合データを作成する手順でデータを作成します。

    ※補足
    H30国政局推計 将来推計人口データ)は、2015年(平成27年)の国勢調査に基づき、2050年までのメッシュ別の将来人口の試算をおこなったデータであり、(R6国政局推計 将来推計人口データ)は、2020年(令和2年)の国勢調査に基づき、2070年までのメッシュ別の将来人口の試算をおこなったデータです。そのため、立地適正化計画制度が開始したころの2015年の人口は、(H30国政局推計 将来推計人口データ)の数値を用い、それ以降の2020年~2030年までの人口は、(R6国政局推計 将来推計人口データ)の数値を用いて、分析をおこないます。

    基準となる500mメッシュの作成

    メッシュの作成は「Japanese Grid Mesh」というプラグインで行います。

    メニューバーより[プラグイン][プラグインの管理とインストール]をクリックします。 

    左側から[全プラグイン]を選択後、検索欄に「japan」と入力します。リストから[Japanese Grid Mesh]を選択し、右下のインストールボタンをクリックします。

    プラグインのインストールが完了したら、プロセシングツールボックスの検索欄に「地域」と入力し、[地域メッシュ][地域メッシュを作成]をダブルクリックします。

    今回は500mメッシュ(2分の1地域メッシュ)を作成するため、以下のように設定を行います。

    1.         地理座標系:[日本測地系2011

    2.         メッシュの作成範囲:[]ボタンをクリック[レイヤから計算][居住誘導区域]レイヤを選択

    3.         2分の1地域メッシュ:[]ボタンをクリックして、[一時レイヤを作成]をクリック

    4.         [実行]ボタンをクリック

    下記図のように、居住誘導区域が含まれる500mメッシュ(2分の1地域メッシュ)が作成されました。

    また、属性テーブルを確認すると、メッシュのIDを示す「code」属性が格納されていることがわかります。

    H30国政局推計 将来推計人口データを結合

    次に、上記で作成したメッシュデータに「500m_mesh_2018_16H30国政局推計 将来推計人口データ)」のデータを結合します。

    それぞれの属性のキーとなるメッシュIDをもとに結合を行いますが、H30国政局推計 将来推計人口データの「MESH_ID」属性は数値型のため、このままでは2分の1地域メッシュと結合できません。そこで、「属性のリファクタリング」を使用して「MESH_ID」属性をテキスト型に変換します。

    プロセシングツールボックスの検索欄に「属性を」と入力し、[属性をリファクタリング]をダブルクリックします。

    以下のように設定を行います。

    1.    入力レイヤ:[500m_mesh_2018_16H30国政局推計 将来推計人口データ)]を選択し、「属性の対応関係をリセットしますか?」と表示された場合は[はい]を選択

    2.    属性の対応関係:一行目の「MESH_ID」の型の列から[テキスト]を選択

    3.    [実行]ボタンをクリック

    「再構成レイヤ」という名称でレイヤが追加されます。レイヤプロパティを開き、「フィールド」を確認すると、「MESH_ID」属性がテキスト型に変更されていることがわかります。

    これでテーブル結合の準備が整ったので、2分の1地域メッシュに「属性テーブルで結合」を使用して、二つのデータを結合します。

    プロセシングツールボックスの検索欄に「属性テーブル」と入力し、[属性テーブルで結合(table join)]をダブルクリックします。

    以下のように設定します。

    1.         入力レイヤ:[2分の1地域メッシュ]レイヤ

    2.         入力レイヤの結合対象フィールド:[code

    3.         2の入力レイヤ:[再構成レイヤ(H30国政局推計 将来推計人口データの属性をリファクタリングしたレイヤ)]

    4.         2の入力レイヤの結合対象フィールド:[MESH_ID

    5.         2の入力レイヤからコピーする属性:[…]をクリックして、[PTN_2015]を選択

    6.         [実行]ボタンをクリック

    R6国政局推計 将来推計人口データを結合

    500m_mesh_2024_16R6国政局推計 将来推計人口データ)」の「MESH_ID」属性については、テキスト型で作成されています。そのため、属性のリファクタリングを行わずにテーブル結合を実施できます。同様の手順でテーブル結合を実行します。

    1.         入力レイヤ:[出力レイヤ(上記手順でテーブル結合したレイヤ)]

    2.         入力レイヤの結合対象フィールド:[code

    3.         2の入力レイヤ:[500m_mesh_2024_16R6国政局推計 将来推計人口データ)]

    4.         2の入力レイヤの結合対象フィールド:[MESH_ID

    5.         2の入力レイヤからコピーする属性:[…]をクリックして、[PTN_2020PTN_2025PTN_2030]を選択

    6.         [実行]ボタンをクリック

    「出力レイヤ」という名称でレイヤが出力されるので、他のレイヤと区別できるように「人口推計メッシュ」のようにレイヤ名を変更しておきましょう。

    ここで、「人口推計メッシュ」レイヤの属性テーブルを確認すると、2015年から2030年までの各年の人口値が格納されていることがわかります。なお、NULLと表示されているメッシュは、そのメッシュに人口が存在しないことを表しています。

    「人口推計メッシュ」レイヤと「居住誘導区域」レイヤ以外は使用しないため、レイヤを右クリック→[レイヤを削除]を選択し、レイヤパネルから削除しておきましょう。

    テキスト

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    居住誘導区域内の人口推移の分析

    データの準備が整ったので、居住誘導区域と交差する人口推計メッシュを抽出して人口がどのように推移しているのか確認してみたいと思います。

    なお、今回は分析を簡易的にするため交差するメッシュを対象としており、一部のメッシュは必ずしも全域が居住誘導区域に含まれていない場合があります。より正確な分析を行いたい場合は、面積按分などの手法を用いることを検討してください。

    居住誘導区域に交差する人口推計メッシュを抽出します。

    プロセシングツールボックスの検索欄に「場所による」と入力し、[場所による抽出]をダブルクリックします。

    以下のように設定します。

    1.         抽出する地物のあるレイヤ:[人口推計メッシュ]

    2.         空間的関係:[交差する]にチェック

    3.         比較対象の地物のあるレイヤ:[居住誘導区域]

    4.         [実行]ボタンをクリック

    居住誘導区域に交差する人口推計メッシュが抽出されました。レイヤ名を「人口推計メッシュ(居住誘導区域のみ)」に変更しておきます。

    では、次に「人口推計メッシュ(居住誘導区域のみ)」レイヤの2015年と2020年の人口の差分を元にスタイル設定を行ってみます。

    人口推計メッシュ(居住誘導区域のみ)」のレイヤを右クリック→[プロパティ]を選択し、さらに「シンボロジ」メニューを開きます。

    以下のように設定します。

    1.         モード:[連続値による定義]を選択

    2.         値:「"PTN_2020" - "PTN_2015"」と入力

    3.         カラーランプ:[]をクリックしてカラーランプからお好みな配色を選択

    4.         [分類]ボタンをクリック

    5.         OK]ボタンをクリック

    あわせて、居住誘導区域も適宜スタイルを変更しておきましょう。

    結果を確認してみると、一部のエリアでは人口が減少に転じており、またその他のエリアでは増加しているなど、居住誘導区域内の人口変動は地域によって異なることがわかります。

    続いて、「人口推計メッシュ(居住誘導区域のみ)」の人口の合計値を算出してみたいと思います。

    プロセシングツールボックスの検索欄に「集計」と入力し、[集計]をダブルクリックします。

    以下のように設定します。

    1.         入力レイヤ:[人口推計メッシュ(居住誘導区域のみ)]を選択。「属性の対応関係をリセットしますか?」と表示された場合は[はい]を選択

    2.         集計:一行目の「code」の集計関数列から[first_value]を選択。あわせて、「PTN_2015 PTN_2020PTN_2025PTN_2030」の行の集計関数列が、[sum]になっていることを確認

    3.         [実行]ボタンをクリック

    「集計出力」レイヤが出力されるため、属性テーブルを確認してみましょう。結果を確認してみると、2015年から2020年にかけて人口が約870人増加していることがわかります。しかしながら、2025年以降は人口が減少に転じると予測されています。

    この分析結果については、次の2点にご留意ください。
    1に、居住誘導区域に交差するメッシュを抽出して集計を行った概算値であること、第2に、2025年以降の人口値は推計値であり、現在自治体が実施している人口誘導施策の効果が十分に反映されていない可能性がある点に注意が必要です。

    なお、「富山市立地適正化計画」の資料を確認すると、「公共交通沿線居住推進地区」においては、2014年(H26)から転入超過を維持していることが確認でき、今回の解析結果のうち、2015年から2020年の人口推移については、同様の結果が得られていることがわかります。 (国土数値情報の鉄道データバスルートデータを重ね合わせて、人口増減を表示)

    グラフ

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    ※富山市の資料では「公共交通沿線居住推進地区」を対象範囲としており、今回解析を行った居住誘導区域とは厳密には範囲が異なります。しかしながら、富山県の居住誘導区域は、「都心地区」と「公共交通沿線居住推進地区」を基本に設定されており、エリアは概ね一致しています。

    最後に、居住誘導区域に交差するH30国政局推計の将来推計人口データを抽出し、2015年から2020年の人口差分を分析したところ、約2,600人の減少という結果が得られました。この数値は、R6国政局推計とH30国政局推計の二つのデータを用いた先の分析結果(2015年から2020年で人口が約870人増加)と大きく異なるものであり、H30国政局推計のデータが作成された時点では、富山市の当該地域の人口は早期に減少していくと予測されていたことが分かります。しかし、実際の2015年と2020年の人口差分は約870人の増加であり、このことは、富山市におけるコンパクトなまちづくりが効果を上げ、人口増加が実現されたことを示唆しています。

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    おわりに

    この記事では、QGISと国土数値情報で公開されているデータを活用して、立地適正化計画における居住誘導区域の将来推計人口データを抽出し、その推移を分析する方法を解説しました。具体的には、以下の手順で分析を実施しました。

    ·            立地適正化計画から居住誘導区域を抽出

    ·            居住誘導区域の範囲で500mメッシュを作成し、R6国政局推計とH30国政局推計の将来推計人口データの属性を結合

    ·            居住誘導区域に交差する将来推計人口データを抽出および集計

    将来推計人口はあくまで推測値であり、現在その自治体で取組み中の施策の動向が十分に反映されたものではありませんが、将来のおおよその人口推移の動向は把握可能ですので、居住誘導区域の人口密度維持に備えた今後の施策検討における基礎的な資料として活用することができます。

    また、この分析手法は、居住誘導区域だけでなく、その他の都市計画関連の区域や、洪水浸水想定区域、小学校区など、面的な範囲を持つあらゆる区域について、その域内の人口算出をおこなうのに応用可能な手法となります。様々な行政の施策検討におけるEBPMの推進に是非ご活用ください。

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