国土数値情報 道路データとQGISを活用したネットワーク解析~津波避難困難地域の分析~

    2026年3月 国土交通省 政策統括官付 地理空間情報課




    ライセンス

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    はじめに

    この記事では、主に防災・危機管理、都市計画・まちづくりに関わる方を対象に、国土数値情報 道路データとQGISを活用した指定緊急避難場所からのネットワーク解析(到達圏解析)によって、津波の避難困難地域を分析する方法を紹介します。

    1. 到達圏解析

    (1)    指定緊急避難場所を起点に、道路ネットワーク上で一定距離(例:500m)以内に到達できる範囲を「サービスエリア」ツールで算出します。

    (2)    サービスエリア結果に凸包などの処理を適用し、到達圏を「面」として把握しやすい形に整えます。

    2.       人口分布や津波浸水想定エリアとの重ね合わせ

    (1)    250mメッシュ別将来推計人口データや、津波浸水想定データを到達圏解析結果に重ね合わせます。

    これらの分析により、避難困難地域の有無を把握し、避難場所の立地の評価や、今後の対策検討などに活用できる基礎資料を作成します。

    また、この記事では、和歌山県すさみ町を対象地域として分析を行います。すさみ町では、南海トラフ地震を見据え、「フェーズフリー(平時と災害時の区別なく活用できる考え方)」をビジョンとしたスマートシティ構想を推進し、さまざまな実証実験が行われています (PLATEAUを活用したドローン航路作成とデジタル避難訓練(すさみ町役場地域未来課))。


    ・この記事は、QGIS3.40で執筆しています。
    ・QGISの基本操作(レイヤの追加やスタイルの設定など)ができることを前提としています。

    道路データとは

    国土数値情報 道路データは、道路法に基づく高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市区町村道など全国の道路について、道路中心線の形状データと、道路分類や幅員区分などの属性情報を整備したGISデータです。 平成7年(1995年)版のデータ以来、長らく更新されていませんでしたが、この度、約30年ぶりに更新データを公開しました(データ基準年:令和6年度(2024年度)版)。

    国土数値情報 道路データは、ノード・リンク構造は持たないラインデータであるものの、GISソフトの機能を用いた簡易的な距離計測や到達圏解析などのネットワーク解析には十分活用することができます。また、道路種別や幅員区分の違いを踏まえた道路の可視化・分析にも活用することができます。


    道路データのダウンロードと追加

    国土数値情報から道路データをダウンロードし、QGISに追加します。

    国土数値情報の「道路データのダウンロードページ」にアクセスします。ページをスクロールすると、ダウンロード対象地域を選択できる地図が表示されます。目的のエリアのメッシュを選択し、[ダウンロード]ボタンをクリックします。

    本記事では、すさみ町が含まれるメッシュ番号5035のデータをダウンロードし、以降の説明を行います。

    画面上に「国土数値情報ダウンロードサイト ユーザーアンケート」が表示されます。必要に応じて回答し、回答を完了するか[スキップする]をクリックすると、データのダウンロードが開始されます。

    データのダウンロードが完了したら、ZIPファイルを解凍して、「.shp」ファイルをQGISに追加しましょう。ここで、背景地図として地理院地図などを追加しておくとよいでしょう。ここでは、地理院地図(淡色)を追加しています。

    レイヤ名は「N13_24_5035」のような形式で表示されているため、レイヤを右クリックし、[レイヤの名前を変更]から「道路」など分かりやすい名前に変更しましょう。



    属性テーブルの確認

    続いて、道路データの属性テーブルを確認します。レイヤパネルから道路データを右クリックして、[属性テーブルを開く]をクリックします。

    道路データの属性テーブルを確認すると、国道や都道府県道などの道路分類を示す「N13_003」や、道路の幅員を示す「N13_006」など、さまざまな情報が格納されていることが分かります。


    幅員区分属性によるスタイリング

    幅員区分の属性(N13_006)に応じた色分け表示を行ってみます。

    道路データのレイヤプロパティを開き、[シンボロジ]タブを選択して、以下の手順でスタイルを設定します。
    1. モード:[カテゴリ値による定義]を選択
    2. 値:[▼]をクリックして、[N13_006(幅員区分)]を選択
    3.[分類]ボタンをクリック
    4. 凡例にコードに応じた値を入力
    5. [OK]ボタンをクリック

    マップキャンバスを確認すると、道路の幅員区分ごとに異なる色で表示されます。


    道路データの前処理

    ここからは、道路データを到達圏解析で使用するための前処理を行います。具体的には、対象市町村(すさみ町)のポリゴンでデータを切り抜き、正確な距離計算ができるよう平面直角座標系に投影変換し、指定緊急避難場所を津波対応のものに絞り込みます。



    行政区域データから対象市町村のみ抽出

    道路データは1次メッシュ単位で整備されており、比較的広い範囲をカバーしています。今回は和歌山県すさみ町を対象に分析を行うため、すさみ町の行政区域データを使って道路データを切り出します。

    国土数値情報から和歌山県の「行政区域データ」をダウンロードします。

    ダウンロードが完了したらZIPファイルを解凍し、「.shp」ファイルをQGISに追加しましょう。レイヤ名を「行政区域」などわかりやすいように変更しておきます。

    次に、和歌山県の行政区域を「すさみ町」のみに絞り込みます。行政区域レイヤを右クリックし、「フィルタ」をクリックします。

    「クエリビルダ」画面が表示されます。ここでは行政区域の「市区町村(N03_004)」が「すさみ町」のレコードのみを抽出します。設定手順は次の通りです。

    1. フィールドから[N03_004]をダブルクリック(式欄に「"N03_004"」が入力されます)
    2. 演算子から[=]をクリック(式欄に「=」が入力されます)
    3. 値から[すべて]ボタンをクリック(当該フィールドの値一覧が表示されます)
    4. 値のリストから[すさみ町]をダブルクリック(式欄に「'すさみ町'」が入力されます)
    5. 式が「"N03_004" = 'すさみ町'」となっていることを確認し、[OK]ボタンをクリック

    フィルタが適用され、すさみ町のポリゴンのみが表示されるようになります。


    道路データを市町村の範囲で切り取る

    次に、道路データをすさみ町ポリゴンで切り抜きます。メニューバーから[ベクタ]→[空間演算ツール]→[切り抜く]を選択します。

    入力レイヤには[道路データ]、オーバーレイレイヤには[行政区域]を選択し、[実行]をクリックします。

    処理が完了すると、「切り抜き結果」という新しいレイヤが追加され、すさみ町の範囲で道路データが切り抜かれていることがわかります。元のレイヤと区別できるよう、レイヤ名を「すさみ町道路」などに変更しておきましょう。


    道路データを平面直角座標系に投影変換

    ここまでで、すさみ町の道路データのみを抽出できました。到達圏解析では正確な距離計算が必要なため、メートル単位で扱える座標系(平面直角座標系)に変換します。

    なお、平面直角座標系についての詳細は、国土地理院の「わかりやすい平面直角座標系」をご覧ください。

    メニューバーから[ベクタ]→[データ管理ツール]→[ベクタレイヤを再投影]を選択します。

    「ベクタレイヤを再投影」ウィンドウが開いたら、次のように設定します。

    1. 入力レイヤ:[すさみ町道路]
    2. 変換先CRS:[地球儀ボタン]をクリックし、[EPSG:6674 - JGD2011 / Japan Plane Rectangular CS VI]を選択(対象の市町村にあわせた平面直角座標系を選択してください)
    3. [実行]ボタンをクリック

    処理が完了すると「再投影したベクタレイヤ」というレイヤが出力されます。レイヤ名を「すさみ町道路_6674」など、分かりやすい名称に変更してください。



    データの追加

    到達圏解析の起点となる指定緊急避難場所のデータを追加します。本記事では、国土地理院が公開する「指定緊急避難場所データ」を活用します。

    ダウンロードページにアクセスして、分析対象地域である和歌山県の指定緊急避難場所データをダウンロードしましょう。ダウンロードしたデータを解凍し、GeoJSONファイルをQGISに読み込みます。レイヤ名は「指定緊急避難場所」に変更しておきます。


    津波に対応した施設を抽出

    指定緊急避難場所は、災害の危険から命を守るために緊急的に避難する場所です。例えば大地震が発生し、津波の到達が予想される場合は、津波災害に対応している指定緊急避難場所へ避難することになります。

    ここでは、指定緊急避難場所のうち、津波に対応している施設(「津波」属性が「1」)のみをフィルタで抽出します。

    先ほどと同様の手順で、式が「”津波” =‘1’」となるように入力してフィルタを実行します。

    津波を対象とする指定緊急避難場所のみが抽出されました。


    到達圏解析の実施

    到達圏解析とは、「道路ネットワーク上において、ある地点から一定の距離(または時間)以内に到達できる範囲」を算出する空間解析です。QGISでは、点レイヤ上の地物(ポイント)を起点として、指定した距離または時間コスト以内で到達可能なネットワークのエッジ(道路線)を抽出する「サービスエリア」ツールという到達圏解析の機能が用意されています。

    本記事では、津波対応の指定緊急避難場所を起点とした到達圏を作成し、人口メッシュを重ねることで、「人口が一定数あるにもかかわらず、近くに避難場所がない」可能性のある場所を可視化します。

    なお、「津波避難対策推進マニュアル検討会報告書(消防庁、H25.3)」において、避難可能な限界距離として 500m程度を目安とすることが示されています。そのため、本記事ではこの基準に基づき、避難場所から500m以内を到達圏として解析を実施します(実務においては、分析対象地域の状況に合わせて距離の設定を調整してください)。


    サービスエリアの実行

    まず、メニューバーから[プロセシング]→[ツールボックス]を選択します。

    プロセシングツールボックスが開いたら、検索欄に「サービス」と入力し、検索結果から「サービスエリア(始点レイヤ)」をダブルクリックします。

    指定緊急避難場所から500m以内に到達できるレイヤを作成するため、次のように設定します。

    1. ネットワークを表すベクタレイヤ:[すさみ町道路_6674]
    2. 計測するパスの種類:[最短]
    3. 始点のベクタレイヤ:[指定緊急避難場所]
    4. 求めたい旅行コスト:500(メートル)
    5. 詳細パラメータ内のMaximum point distance from network:100(メートル)※
    6. [実行]ボタンをクリック

    ※Maximum point distance from network(ネットワークからの最大距離)について

											始点のベクタレイヤ上のポイント(指定緊急避難場所)の多くは、道路データのラインに完全に重なる位置ではなく、少し離れた位置にあります。
											「ネットワークからの最大距離」を例えば100mと設定していると、道路のラインから100m以内に位置している避難場所のポイントを、
											道路のラインと「接続している」とみなして到達圏解析の処理を実行します。
											ラインから100mより離れた距離に存在するポイントを起点とした到達圏解析は行われません。
											距離の設定については、データの実情に応じて調整してください。

    処理が完了すると、「サービスエリア(線)」という名称でレイヤが出力され、始点レイヤを中心として、道路ネットワーク上で500m以内に到達できる範囲の道路データが出力されていることが分かります。


    凸包で到達圏ポリゴンの作成

    サービスエリアの結果は「到達できる道路線」として出力されるため、そのままだと面としての広がりや空白が直感的に把握しにくい状態です。そこで「凸包」処理を行い、面データに変換します。

    プロセシングツールボックスの検索欄に「凸」と入力し、検索結果から「凸包(convex hull)」をダブルクリックします。

    入力レイヤに[サービスエリア(線)]を選択し、[実行]をクリックします。

    サービスエリアで出力された道路データを囲うような形で、「出力レイヤ」という名称のポリゴンレイヤが出力されます。

    それぞれの指定緊急避難場所から到達圏ポリゴンが作成できましたが、避難場所が密集しているエリアでは、複数のポリゴンが重なって見づらくなっています。そこで、メニューバーの[ベクタ]→[空間演算ツール]から[融合]ツールをクリックします。

    このレイヤに対して融合処理を行いましょう。

    「融合ポリゴンの出力」という名称で出力されるため、レイヤ名は「500m到達圏」などの名称に変更しておきます。


    人口メッシュ・津波浸水想定エリアとの重ね合わせ

    国土数値情報の「250mメッシュ別将来推計人口データ」を到達圏解析結果に重ね合わせます。QGISにデータを追加し、「2025年の総数人口(PTN_2025)」をもとに「連続値による定義」で適宜スタイリングします。

    併せて、行政区域や到達圏なども見やすいスタイリングに調整しましょう。

    すさみ町全域を俯瞰すると、津波対応の指定緊急避難場所から500m以内の到達圏について、山間部の一部メッシュは含まれていないものの、沿岸部においては大部分のメッシュが含まれていることが分かります。

    次に、詳細を確認するため、すさみ町役場周辺のエリアを見てみます。メッシュのラベルには、「2025年の総数人口(PTN_2025)」の値を表示しています。

    津波対応の指定緊急避難場所から500m以内の到達圏は、人口の存在するメッシュを概ねカバーしており、避難所配置が全体として一定程度機能していることが確認できます。

    なお、本記事で示した結果はあくまで道路ネットワークと距離に基づく簡易的な解析であり、実際の避難における様々な要因を完全には反映していない点にご留意ください。実際の検討にあたっては、地形条件、避難経路の安全性、地域の実情など、多角的な視点からの総合的な判断が必要となります。

    最後に、国土数値情報から「津波浸水想定データ」を重ねてみます。 沿岸部を中心に津波の浸水が想定されていますが、人口メッシュが存在し、かつ津波浸水が予想されているエリアは、概ね到達圏の範囲内に含まれていることが確認できます。 これは、現在の避難所配置が一定の有効性を持つことを示唆しています。


    おわりに

    本記事では、QGISと国土数値情報の道路データを活用した指定緊急避難場所からの到達圏解析によって、津波の避難困難地域を可視化する手法を紹介しました。

    今回は簡易的に500mの到達圏を作成しましたが、地形条件や構造物などの障害物、実際の避難経路における通行可否なども考慮することで、より実態に即した解析を行うことができます。

    また、QGISと道路データを活用した到達圏解析については、避難場所以外にも、学校・福祉施設・病院などの公共施設、駅やバス停などの公共交通の拠点、商業施設・店舗・事業所・観光施設など、人・モノが集まる場所・施設を起点にして解析する応用が可能ですので、これらに対しての道路距離に基づく立地評価を行う場面で、ぜひご活用ください。

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